赤鬼くん

鬼武蔵のことが気になりすぎてお勉強中の人間の記録用ブログ

「戦国の鬼 森武蔵」 感想

戦国の鬼 森武蔵

戦国の鬼 森武蔵

(もう古本しかありませんが…)

歴史小説というのでしょうか、そういったものを読むのが初めてだったので比較は出来ないのですが、読みやすかった印象です。
自分用の記録として感想を書き始めたら長ったらしくなったので、読み返しやすいようにブログにまとめることにしました。
そこそこ内容について書いているのでこれから読みたいしネタバレはちょっと…という方には向いていないかもしれません。

長可の描かれ方

『戦国の暴れん坊・鬼武蔵』ではなく、『戦国の世で鬼となり戦った若き武将』という描かれ方でかなりかっこいい長可でした。
はじめは自分の地位を守るために(父から継いだ城であり、母や弟達をこれまで通り「城主の肉親」として生活させるために)、そして家臣とその家族たちを守るために、鬼になったんですね…ならざるを得なかったんですね…

美少年長可が考えた生き残る術は「鬼」だった

何の手柄もなくただ跡取りというだけで幼くして城主となった自分がいかにして人の上に立つか、自分の弱点を理解したうえでどう行動するかを常に考えていた長可。
この物語の中で長可はかなり小柄という設定です。
父も小兵であり遺伝もあるけれど、幼くして城主になることとなり、戦に出るための鍛錬をめちゃめちゃ頑張ったことも成長期の体に影響を及ぼし、身長は低いまま「胸板は厚く上腕は丸太のよう」な体つきになります。
しかも「日に焼けない」、「切れ長の目」で「豊頬」の「美少年」。

実績が無いまま城主になったうえに見た目は小柄で色白の美少年(甲冑を身に付けるのでそこまで筋肉モリモリに見えない)という、舐められる見た目である長可がいかに人を従えるか………

圧倒的な力と気迫、ということでしょうかね。


誰よりも最前で誰よりも敵を討ち取る長可の戦い

戦では自ら最前に赴き、向かってくる敵を討ちまくり兵達を勢い付けます。(敵味方両方から引かれもします)
戦での長可の描写はかなりかっこいいです。
初陣では、敵を前に不安そうな家中を見て、大声(好きポイント)で浄土真宗聖典を唱え士気を高める姿が最高に痺れます。(兼山衆の大勢が一向宗/長可自身は曹洞宗だが一向宗である母親の読経を幼少期よりずっと聞いていたので記憶していた)
他にも、鎧を着けた身一つで銃撃の中を1人突き進むなど、「かっこいいけど常人ならしないだろう」と思われるような戦い方の長可が見られます。(勿論敵も味方も引きます)

この本での描写はありませんでしたが、徳川の兵が長可の首を長可と分からず鼻を削ぐだけだったというのも、長可の見てくれを知らない人物からすれば最前に飛び出し戦う兵士がまさか鬼武蔵とは思わなかったのだろうと納得がいく戦いっぷりです。

あの逸話と本作における解釈

長可お暴れエピソードもちゃんと(ちゃんと、とは…)描かれていたけれど、どれも「なるほど、長可はこう考えてこの行動に出たのか」と納得できるような流れで、物語における長可は結構冷静な人物だと感じました。
ただ、戦国の世において兵の命の扱いに重きを置いている様子ではないことや、その意識は長可自身の命にも同じようにあり自分の死を恐れず、側から見たら無茶な動きをしていることから、周囲の人間からすればまさに「鬼」であったのだろうとも感じました。

人気エピソードであろう「関所血祭り事件」も、ただキレやすい若者がガチ切れて殺しちゃったよ~という話ではなく語られています。
そこに至るまでの長可と家臣たちの働きを愚弄するような関守の物言いに長可も家臣も憤り、兼山衆全員の屈辱を晴らすべく長可は関守を殺しますが、皆で止めたけど俺が振り切ったってことにしとけ!と家臣たちに言うと、すぐに自刃できる準備でそのまま1人で信長の元へ行くのです。
信長は「勝蔵(本作では“しょうぞう”)の如き阿呆(たわけ)も、まだおるのだなあ。」と大笑いするという話で、この物語における長可らしいエピソードになっていて良かったです。

史実で信長に違反を怒られている長可ですが、この本では弱冠13歳で何の武功もあげぬまま城主になり、歳も経験も上な家臣たちをいかに従えさせるか、経験のない自分がどう動けば家臣や兵はついてくるのか、一人で考え実行してきたという描かれ方をしているので、相談せずに臨機応変に対応してしまうという風に育ち、その結果の違反なのかなと考えられました。

一つ、「鬼っつーかなんつーか???化物か??」となったのは、肩に乗った怨霊の魂をまとめて丸めて呑み込んだところですね。

心で通じ合う長可たけ夫婦

妻たけとの関係も、心が強く結ばれている描写でとても好きです。
長可が唯一、鬼ではないただ1人の若い男として接することができる大切な存在がたけでした。
たけも、鬼になるしかない長可の周囲には決して見せない悲しみや苦しみを理解して寄り添う優しさだけでなく、「武将とは、人として最低の生き物であるな」と言った長可に「はい」と答えられる強い人で、そこがまた悲しくもあり、この夫婦の関係に惹かれる要素でもありました。

長可巨根エピソード解釈 

長可の外見について、こんなに巨根エピソードいる?とも思ったけれど、2人の間に子がいないということに対しての物語なのかなと思いました。
長可の巨根は女達を悦ばすことができる逸物だがたけとの身体の相性だけが良くなかったという話も、不能ではないけれどたけを愛するが故に鬼となり戦う自分への負の感情が出てしまい上手くいかないという長可の抱える心の問題を描くためのものだったのかな…

蘭丸を守るためにも鬼となり、仙千代へは…?

信長には可愛がられているものの、周囲からは良く思われていない蘭丸を見て「自分が鬼であり続ければ蘭丸に手出しする奴もいないだろう」と、より一層の覚悟を決める長可ですが、仙千代の扱いはなかなかに雑というか、少し突き放したような接し方をしているようでした。
蘭丸に対する態度と仙千代に対する態度の違いに少し戸惑いましたが、もう生き残っている弟が仙千代しかいない状態で、自分もいつ死ぬか分からない、仙千代が継ぐかもしれないということを考えて、仙千代に城主たる器があるか見極めたかったのかもしれません。

静かに迎えた鬼武蔵の最期

長可の最期は想像よりずっと静かで寂しさを感じる描写でした。
え~ここで死ぬのか…と少々拍子抜けもしましたが、この物語の長可にぴったりな寂しさで、これはこれで良いなと思いました。
鬼として戦い鬼のまま死んでしまったことは悲しくもあり、戦国の世を駆け抜けた「鬼武蔵」の生き様だと思うと、森長可の一生は人を惹きつける物語だったんだなと感じます。

我儘コメント

白装束を着て戦に赴いたという長可ファンの大好きエピソード(私調べ)が無かったのは少し残念に感じました。
物語として読んでみたかったです。


感想文は以上になります。以下、物語を楽しんだメモ的なもの。 

長可を取り巻く人物像

萌えの各務兵庫
・各務兵庫「殿ぉ!」
・蘭丸が信長に気に入られている話を破顔して報告する各務兵庫
・各務兵庫「殿ぉ!」


チャーミング信忠
信忠「信長公には、内緒だぞ」

急に乙女ゲームの世界に引き摺り込まれたのかと思い焦ってしまいました。
弟達を守るべき存在として可愛く思う長可に対して、兄弟に嫉妬の念を抱き可愛いと思えない胸中を話す信忠に、長可は「某を弟とお思いください」と言います。
長可に責任をなすりつけることもあれど信忠は長可を信用しており、信長ほどの気迫は無いながらも怒ると父親似で思った時に思ったことを口に出してしまう、人間味のある人物です。

長可「御意」
信忠「ではなく、『はい、兄上』だ」


パパ恒興
若年の長可に対しても腰が低く、接し方が丁寧で穏やかでした。
恒興が登場するとホッとします。

掴みきれぬ信長
幼少期、父と過ごすことが少なかった長可が「父とはこういうものなのかな」と思いながら接していました。
周りが恐れて言えないような発言をする長可を斬り捨てず聞き入れるなど、長可の観察と判断力の高さを感じることもあれば、長可の考えが全て見透かされているなど(信長曰く「勝蔵は胸中をすぐに顔に出す」)、長可自身、信長がどんな人物なのか掴みきれないままだった印象です。

コミュ力高い秀吉
情に厚く、身分に関係なく声を掛け、偉ぶらない秀吉を、それも含めた策略だろうと長可は観察しています。
実際どうであったか、というところまでは細かい描写は無いけれど(したたかではある)、最後まで情に厚い人だったなという印象です。
長可と最後に交わした言葉が泣けます。


好きな長可についての描写

  • 「言葉を売られて買わない長可ではない。」
  • 結婚が決まると家臣たちから「これで学んでください」と春画を貸し付けられ目眩がする。
  • 馬場美濃守信房「まるで野に咲く蘭の如き、優男」
  • 長可「あ、死ぬのを忘れておった」
  • 「長可の体は馬よりもかなり小さいが馬よりも少し頑丈にできている」
  • 野に咲く蘭の花を具足に挟み出陣(涙)
  • 鬼の目にも…ツラくて私の目にも涙でした。





思い切って購入して良かったです。